最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)2776号 決定 1953年7月08日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人小林亀郎の上告趣意第一点について
所論は、原判決が刑訴規則二四六条後段(昭和二五年最高裁判所規則二八号による改正)に従っているのを非難するものであって刑訴四〇五条に当らない上、右規則にいう控訴趣意書の控訴判決への引用の如きは、単なる訴訟経済を図るに出たものであって、これと控訴趣意書を上告趣意書に引用することが性質上許されない場合とを比較することはできない。所論は採用できない。
同第二点について
被告人の容貌体格をその同一性を確認する資料とするような場合においては、裁判官が直接五官によって認知するものであるから、その性質は検証に属するところであるが、公判廷において裁判官が特段の方法を用いずに当然に認知でき当事者もこれを知り得るような場合においては、原則として証拠物の取調又は公判廷における検証として特段の証拠調手続を履践する必要がないものと解すべきものである。更に論旨のいう証明力を争う機会が与えられていなかったような場合には、公判廷における検証の手続を特に行うことを必要とすると解すべきであるが、本件のように被告人と犯人との同一性が法廷において争われていて、犯人の容貌体格と被告人の容貌体格との異同が争点の一つとなっていたような場合には、被告人及び弁護人においてこの点について新な証拠を提出し、証人の反対尋問をする等証明力を争うに充分な機会を与えられていたのであるから、この観点からしても公判廷において特に検証の手続を採らなかったことを違法ということはできない。挙示の大審院判例は本件に適切でないから、所論は結局訴訟法違背の主張に帰するところ、この違背も認められないこと右に説明したとおりである。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められないので同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)